いつも忘れ物をする子どもとたまにしか忘れない子どもとはしっかり分けて指導する。
このことはしっかり自分に言い聞かせていたヨーコですが,どうもはっきりしません。
「あれ・・この子昨日も忘れてなかったかしら。」
「あれ・・今日はじめて・・?これまで忘れ物をしたことなかったっけ・・」
記憶だけでははっきりしません。
忘れ物カードで回数を確かめる
そこで,ヨーコは「忘れ物カード」をつくることにしました。
忘れたら,何を忘れたのかを書いてもってこさせるのです。これで記録が残るので,たくさん忘れる子どもとあまり忘れない子どもとが一目瞭然。
「リョータ君,もう5回目よ!」
「ゆきちゃんは初めてわすれたのね。」
すぐにわかります。
ヨーコは,うまくやった,と自信満々。主任のマキに報告に行きました。
「マキ先生!私,あれからだれがどれだけ忘れたかわかるように忘れ物カードつくったんです。」
「へえ。」
「ほら。こうしたら,たくさん忘れたことあまり忘れてない子がすぐにわかるんですよ。あまり忘れない子を叱ることもなくなりました。」
「いい,工夫をしたわね。」
マキにほめられて,ヨーコはうれしそうです。
「リョータ君はもう5回も忘れてるのね。」
「そうなんですよ。今日はしっかりいいました」
「理科の教科書ね。初めて忘れたみたいね。」
「え?何言ってるんですか?5回目ですよ。マキ先生。」
「ヨーコ先生。リョータ君は,今日理科の教科書を初めて忘れたのよ。それまでの4回は算数。」
「あ・・。本当・・・」
確かに,リョータは,今日初めて「りかのきょうかしょ」と書いています。その前は全部算数でした。
「あれ・・・じゃ,今日叱った方がよかったのかな・・でも全部合わせたら5つ忘れたのはたしかだし・・・」
ヨーコは頭にはてなマークをいくつもつけて考え込んでいます。
マキはいいました。
「細かくみたら,今日の叱り方もかわっていたかもよ。理科の教科書は初めて忘れたのね。こんどからわすれないようにねっていえたかもしれないわね。」
そうかもしれないなと思って,ヨーコはもう一度カードを見ました。
「それからもうひとつ。」
マキはいいました。
「リョータ君,算数を4回も忘れてるでしょ。もしかしたらなくしちゃってるんじゃないの?」
ヨーコははっと思いました。そうかもしれません。
「忘れ物にも,単にうっかりの場合もあれば,何かわけがある場合もあるわよ。なくしたとか,整理がうまくできてないとか,習慣がきちんと身についていないとか。せっかく忘れ物カードはじめたんだから,そこまで見えるようになったらいいわね。」
ヨーコは感心しました。記録するだけだと思っていた忘れ物から,こんなにいろんなことがわかるんだ・・・。
ヨーコの日記
忘れ物カードって,どれだけわすれたかすぐわかるからいいな。
子どもにも自分がどれだけわすれたか気づけるから,忘れないようにしようって思えるみたい。
それにしても,忘れ物の中味をもっと細かく見なきゃ。単にうっかり忘れたのか,それともなくなったりなど何かわけがあるのかそういうことを見取ってあげないと。
翌日,算数の時間,やっぱりリョータが「さんすうのきょうかしょ」と書いて忘れ物カードを持ってきました。こころなしかおずおずとしています。さすがに5回目ともなるといくら元気なリョータでも言い出しにくくなるようです。
ヨーコは忘れ物カードを受け取ると,じっと見ていいました。
「リョータ君,もしかしたら算数の教科書がなくなったんじゃないの?」
「うーん。なくなったみたい・・・」
ヨーコはクラスのみんなに問いかけました。「リョータ君の算数の教科書がなくなったんだけど,だれか間違えてもってない?」
翌日,間違えてもってかえっていた子どもが「家にありました」と言って持ってきました。
リョータはほっとした顔をしています。