「聞いてくださいよ!マキ先生」
お昼休み,ヨーコがぷーっとふくれてマキの教室にやってきた。
「どうしたの?ふぐみたいになって」
「うちのクラス,忘れ物が全然減らないんですよ。毎時間,「教科書忘れました」「ノート忘れました」ってずらっと私の前にならぶんですから。」
「ふふ。大変ね。」
「もう。笑い事じゃないですよ。それでね,実は困ってることがあって・・」
忘れ物が多い以上に困ってることって何だろうとマキは思い,ヨーコの方に向き直る。
「実は,授業の前に忘れ物をした子が並ぶんですけど,最初は「今度から忘れないようにね」と言って帰すんです。でもそれが5人くらいになってくるとだんだん腹が立ってくるんです。」
「ふんふん。」
「それで8人目くらいになると,同じもの忘れてるのについおこっちゃうんですよ。腹が立って。」
「それは考え物ね。指導は公平でなくちゃ。」
「わかってるんですよ。それでもこう・・・・重なってくるとだんだん腹がたって・・どうしたらいいんでしょう?」
ヨーコの悩みは,よくわかる。
私も若いころは同じことで悩んだっけ。
「ヨーコ先生。その悩みには実は,もう一つ問題があるのよ。気づいてる?」
「なんですか?」
「それは,先生が腹を立ててる子って,普段あまり忘れない子ってこと。」
「え?・・・・・」
そういえば,さっき「もうちゃんとわすれないでもってきなさい!」と叱った子は,あまり忘れない子だったな。悲しそうに帰ったっけ。
「そして,先生がやさしく「今度から忘れないようにね」って言って帰す子どもは,ほとんど毎日忘れてる子。ちがう?」
「そういえば・・・」
最初の方に並ぶのは,たいていいつもの子たちだ。
「ヨーコ先生。最初に並ぶのは忘れ物をし慣れてる子たち。だから,忘れたらできるだけ早く先生の所に行って許してもらえればいいってことをよくわかってる子たちなの。だからさっと並ぶでしょ?」
「はい。」
「でも後の方に並ぶ子たちはあまり忘れ物しないのでいざ忘れたときに先生に言いに行くのを躊躇してでおくれてしまってるのよ。先生はそれに気づかないで,いつも叱る相手を逆にしてるわけ。最初に来る子どもたちの方がむしろ叱られないといけない子供たちみたいね。」
そうだった・・・!目からウロコ…!たしかに。私は叱らないでいい子たちの方を叱ってたんだ・・
ヨーコの日記
今までなんで気づかなかったんだろう。
最初の方に並ぶ子たちはともかく,後の方の子たちは普段忘れ物をあまりしない子たちばかりだった。
それなのに,後の方になるにつれてだんだん腹が立ってくるもんだから,ついその子たちの方を叱っちゃってたんだ。あ~ヨーコ何やってんの。
明日からちょっと叱り方変えなきゃ。並び順に関係なく,いつも忘れる子とたまに忘れた子とはわけて考えなくちゃ・・・