「では,めあてを書くからみんなも書いてね」
ヨーコは黒板の方を向くと,めあてを書き始めました。
書き上げるのに2分。その間,子どもたちはノートに一生懸命めあてを書いていましたが,ヨーコの書くめあての言葉の先を見越して書いてしまった子が何人もいます。
そういった子どもは,もぞもぞし始めます。
やがて,となりの子に話しかける子。
落ちた消しゴムを拾いにいく子。
そういう緊張が崩れてきた状況を見計らって,鉛筆を削りに行く子もいます。
子どもたちはだんだんざわざわしはじめます。
「みんな 静かに!たって歩いちゃダメでしょ!」
ヨーコは子どもたちの方を向いて注意しましたが,また黒板の方を向いて書き始めると,ざわざわざわ・・・・・
・・・職員室で
「マキ先生,黒板に字を書いている間に,どうしても子どもたちがざわざわし始めるんです。先生はどうされてますか?」
中休み,ヨーコは,主任のマキに聞いてみました。
「そうね。私たちって、電子黒板でもない限り、必ず自分で黒板に字を書かないといけないから、どうしても子どもに背中を向ける時間ができます。」
「はい」
「だから、問題はいかにしてその時間を短くするかってことよね。」
マキは、ヨーコの方を向き,話し始めます。
続けて背中を向ける時間を短くすること
「ひとつは,連続して背中を向けている時間を短くするっていう方法があるわね。」
「はい?」
「めあてを書き始めたら,最初の「,」や,言葉の区切りでいったん子どもの方を向くの。そうして,みんながノートに書き始めているかどうかチェックする。」
「あ,なるほど・・・」
「ひとつのことを書く間に何回かに分けて子どもたちをみるようにすると,連蔵して背中を向けている時間が短くなるので,子どもたちの集中はくずれにくくなるわよ。」
「そうか!さっそくやってみます!」
たしかに,その方法なら,何度も子どもたちの方を向くので,席を立ち始めたり,隣の子に話しかけたりすることはなくなるでしょう。
「穴埋め」にして集中させる
「ふたつめは,めあてにしても問題にしても,わざと空白をつくって書いておく,という方法があるわよ。」
ヨーコにはどういうことだかわかりません。
「空白にしておくと,その分書かなくていいから早く書き終えられるでしょ?そうして,いち早く子どもの方を見て,教室を回り始めるの。穴埋めは自分でしなさいということね。」
「ああ,そうか!」
そうしたら,子どもは空白部分に何と書いたらいいのか,私の話を思い出したり,前後の言葉の関係から推し量ったりしながら完成させることができます。その間子どもの集中は続くのです。
「そうして黒板に戻って,空白分を埋めて板書が完成ってわけ。どう?子どもたちからはやったーって声があがって気持ちをさっと束ねられるわよ。」
ヨーコはしきりに感心しています。
背中を向けていても,背中に目を持っていると子どもに知らせること。
「でもね。もっと大事なことがあるのよ。」
「何でしょうか?」
「それはね。背中を向けていても、子どもたちが先生から見てもらっているっていう安心感を持たせることなのよ。背中で見るってことね。」
「背中で見る・・・?」
ヨーコは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてきょとんとしています。
「背中を向けていても、子どもが何をしているかわかるという先生もいるわ。」
「本当に?」
「子どもとの信頼関係といってもいいかもしれないわね。心で繋がってるから、背中を向けていても子どもたちは安心していられるのよ」
ヨーコは目をぱちくりさせていたが,にこっとしてマキに礼を言うと教室に上がって行きました。
ヨーコの日誌
子どもになるべく背中を向けないで、黒板に字を書く技術を身につけないといけないけれど、同じくらい頑張って、背中を向けていても子どもたちが私から見守られていると思えるくらい信頼関係を築きたい。
そして、私も背中に目をつけます。
「うわー先生,背中にめがある」
いや,いや,これはちょっとちがいますよね。