採用2年目の若い先生 キリシマヨーコ先生のお話です。
ヨーコ先生は,里山小学校の3年生を担任しています。
元気で子どもたちが大好きな先生ですが,学ぶことはたくさんあります。
そんなヨーコ先生が,少しずつ成長していくお話です。
運動会シーズン。
里山小学校では、あと2週間後に控えた運動会の練習に,先生たちは目の色を変えています。
ヨーコも例外ではありません。採用2年目になったヨーコは,はりきってステージの上に立ち、ダンスの指導をしていました。
「もっと手を伸ばして!そしてピタッと止める!」
ヨーコは何度もやって見せますが、子どもたちは肘を伸ばしてピタッと止めるところがなかなかうまくいきません。
3年生の子どもの中には、自分の肘が曲がっていても、自分ではまっすぐだと思っている子どもがいます。だから、注意されているのが自分だということに気づかないのですね。
前から見たら、ヨーコにはその子どもたちばかり目に入ります。だから何度も同じところを注意してやり直させていました。
子どもたちはそのうちだんだん飽きてきました。いつの間にか集中も途切れて、体をピタッと止められない子どもが増えてきてしまいました。
「ダメでしょ!みんなちゃんとしなさい!」
ヨーコは焦ってますますやり直させようとしますが,子どもたちの集中は戻りません。
ベテランの主任、マキがステージに上がってきました。
「ヨーコ先生。少し休憩を入れましょう。」
「は・・・はい・・」
子どもたちはグターっと座り込み、途端におしゃべりか始まりました。
「ヨーコ先生。子どもたちのできないところばかり目に入ってたでしょう?」
「はい・・。肘が曲がってると、踊りにメリハリが出ないので、なんとかまっすぐにさせたかったんですけど・・・」
「そうね。ところで、肘が曲がっていた子、どれだけいたか知ってる?」
数を把握する
「え?どれだけ?・・・・たくさんいたと思います。」
「何人くらい?」
「え?あの・・・半分・・・くらい・・・?」
「12人。」
「え?それだけ・・・?」
ヨーコはびっくりした。てっきり50人くらいいるかのような気がしていたからだ。
「気になると、その子ばかりが見えてしまうから、実際よりも多く見えてしまうのよ。だから、いっぱい、とか半分とかじゃなくて、数を確認しなくちゃね」
「あ・・・はい」
12人。数えられる数だ。「たくさん」ではなかった。
そしてもう一つ大事なことがあるの。」
「え?なんですか?」
できている子どもをほめつつ,できていない子どもを個別指導
「ヨーコ先生のやっているように、ピタッと手を伸ばして体を止めることができていた子どもたちはどのくらいいたか知ってる?」
「はい・・・あまり見てませんでした。できてない子どもばかりが見えてしまって・・・」
「そうでしょ?きれいにできてた子どもは、100人中半分以上もいたのよ。そして残りは完璧ではないけどもう少しでできる子。つまり,ほとんどの子どもたちは,ほぼ合格点なの。全員をなんどもやり直させることはなかったの。」
「でも・・・、そうしたらできない子どもはどうしたらいいんでしょう?」
「ほとんどの子どもは完璧じゃないけど合格点はあげられる。だからどんどん褒めて、気持ちをつなげること。そしてどうしてもできない子どもを後からそっと呼んで個別に指導といったところかな。」
ヨーコは目を丸くして聞いています。
「ひじに手を当ててゆっくりと伸ばしてあげるのよ。そしてピンと伸びた状態を作ってあげたらいい。その子どもは,手が伸びたというのはこんな感覚の時なんだって気づくのよ。」
「ああ、なるほど・・・手が伸びている感覚・・・」
大勢の子どもたちはできていることを褒められ、モチベーションはどんどん高くなっていく。
できない子どもたちは個別指導でほんの少しでもできるようになる。
それでいいのでした。
「どうしても私たちはできない子どもの方に目がいっちゃうのよね。そしてできているたくさんの子どもたちと一緒にしかっちゃったり、繰り返し何度も同じことをやらせたりする。大勢を指導するときに気をつけないといけないことよね」
そのあと,ヨーコはマキといっしょに,うまくできている子どもを前で踊らせて見せたり,今一つの子どもたちに「ずいぶんじょうずになったね!」と言ってほめて回ったりしました。子どもたちは喜んでダンスに集中し始めました。
ヨーコの日誌
どうしてもできてない子どもに目が行っちゃって,すぐに注意してしまっていた。
でも,数を確認すれば,むしろ全体ではちゃんとできている子どもの方が多いということがわかる。
できてなくてもふざけたりだらだらしたりしているわけではなく,「できていない」という感覚がわからないだけだ,という子どももいる。
できている子どもはちゃんとほめる
できていない子どもには原因を見取って個別に指導する。
マキ先生,ありがとうございました!